税務調査の来る確率が高い・入りやすい対象は?
見られるポイントとは?
まず相続税の申告や納税が終わった後の流れから解説します。
相続税の申告書を税務署に提出すると、これを機械で読み込みます。税務調査の対象になるのかどうかの前に、そもそも申告書に書かれている相続税の計算に誤りがあるようなら、その時点で直ちに税務署から連絡が入ります。
ですから、この時点で何の不備もなければ次の審査段階へと移行します。
ここで税務調査の対象にするのかどうかが審議されます。相続税の申告から数年経ってから税務調査の連絡が入るのは、このような審査を慎重に進めているためどうしても時間がかかってしまうからなのです。
税務調査の入りやすい対象・確率が高い家庭とは?
まず税務調査の対象になる家庭ですが、その大前提として相続税の納税義務のある家庭ということがあります。これは何となく想像がつくかと思います。
とはいえ、相続税の減税措置である控除や特例を使用することにより、大幅に相続財産の評価額を下げることも可能です。
控除や特例を使用しなくても相続税が発生しない、すなわち相続財産が基礎控除額内に収まる場合には、税務調査の対象になる確率は低くなります。
ここで税務調査の対象になりやすい、入りやすいポイント、見られるポイントをまとめておきます。
1つ目の見られるポイントは・・・
まず相続財産が高額な家庭です。具体的な金額としては3億円超です。つまり、遺産総額が3億円を超えると税務調査の対象になりやすいといわれています。富裕層に税務調査が入りそうというのは何となくイメージしやすいと思います。
ちなみに、全国の相続税が発生した家庭の相続税申告の遺産総額の平均は、2億5,000万円といわれています。
相続財産が高額になればなるほど、評価しなければならない財産は増えますから、それだけ評価額の計算ミスもあるのでは?といった具合で税務調査の対象になりやすいのです。
遺産総額が3億円を超えると、たとえ相続税の申告書に不可解な点がなかったとしても、税務調査になりやすいといえますから注意が必要です。
2つ目の見られるポイントは・・・
まず遺産総額が大きくなりそうな人の税務調査の対象になりやすいポイントについて説明していきます。
1つ目は、相続人名義の預貯金が多額にある場合です。相続人自身で貯めたお金であれば当然何の問題もありません。
ですが、相続人が専業主婦や学生であったり、収入に見合わない貯蓄があると、被相続人から贈与を受けていたのではないか、という疑いがかけられます。
実際に被相続人から贈与があって、贈与税の非課税枠である年間110万円を超えているにもかかわらず、贈与税を納税していないと「贈与税も支払っていませんよね」と税務署から突っ込まれることになります。
また、相続開始3年以内に行われた贈与に関しては、全額が相続財産とみなされます。なので、相続税の申告をしていないと未申告財産になってしまいます。
さらに、名ばかり贈与の問題もあります。
これは相続人名義の口座であるにもかかわらず、実質は被相続人が口座の管理をしている場合には、それは相続人の財産ではなく被相続人の財産とみなされてしまう問題です。
要するに、相続税の申告の際にその口座の存在を明らかにしていないで未申告のままにしておくと、税務調査の際に未申告財産として追加課税されてしまうということです。
これに付随して、証券会社の口座も同様に取り扱われます。つまり、証券会社に相続人名義の口座があってその残高が多額の場合にも、税務調査の対象になりやすいといえます。
本当に相続人が証券会社に口座を開設したのか、あるいは学生である相続人が本当に株の取引をしているのか、もしくは配当金が被相続人に振り込まれるようになっているのに相続人本人の口座といえるのか、というような色々な疑いがかけられます。
税務調査で一番重視されるのは、お金の動きに他なりません。税務署は簡単に被相続人や相続人のお金の動きを把握することが可能です。バレないから大丈夫だろうと思っているのは危険です。
3つ目の見られるポイントは・・・
3つ目のポイントは、預貯金の出入りが多く、使途不明な現金が多額にある家庭には税務調査が入りやすいということです。
税務調査において税務署が最も知りたいことといえば、それは何といってもお金の動きです。ですから、被相続人は当然のこととして、相続人についてのお金の動きについてもしっかり把握されています。
つまり、預貯金の出入りが多く使途不明のお金がたくさんあるといった場合は、税務調査の対象になりやすいといえます。
「相続人に贈与していたのでは?」とか「骨董品を収集していたのでは?」とか「タンス預金をしているのでは?」など、税務署は徹底的にお金が何に使われていたのかを聞いてきます。
そして、もし多額の現金を引き出して購入した財産が相続税の申告書に記載されていない場合には、未申告財産として追加課税の対象になりますので注意して下さい。
とはいえ、被相続人のお金の使途を相続人がすべて把握しているとは限りません。わからない場合は正直に「わかりません」と答えればOKです。
4つ目の見られるポイントは・・・
銀行の貸金庫を利用している家庭も税務調査の対象になりやすいということです。
税務署は被相続人の預貯金口座や所有不動産など、色々なことを調査することができます。つまり、貸金庫を利用しているかどうか、また、いつ誰が貸金庫を開けたのか、そういったことも簡単に把握されてしまうということです。
例えば、被相続人の死亡前後に貸金庫を開けた形跡がある場合には、「何か重要なものが取りだされたのではないか?」という疑いをかけられる可能性が高いです。
そうはいっても、いくら税務署の権限だからとはいえ、貸金庫の中身までは把握できません。なので、貸金庫の中身を見る場合には、相続人の立ち会いが必要になります。もちろん、貸金庫のある家庭すべてが税務調査の対象になるわけではありません。
ですが、少なくとも税務調査の対象になれば貸金庫の中身は必ず調べられると考えておいて下さい。
5つ目の見られるポイントは・・・
被相続人の収入から考えて相続財産が少なすぎるということです。
前述のとおり、相続が発生すると税務署は被相続人の確定申告書を調査します。具体的には、被相続人の預貯金口座や所有している不動産、あるいは所得税の確定申告書から年収も把握していきます。
税務署には過去のデータが大量に保存されていますから、何年分でもさかのぼってこれまでに得た所得金額を割り出すことが可能です。なので、「これだけ収入があるのなら、おおよそこれくらいの相続税を納めることになるはずだ」と予想することができるのです。
ですから、仮に相続人が実際に納税した相続税が税務署の予想を大きく下回っていれば、相続財産の申告漏れや相続税の計算ミスがあるのではないか、との疑念をもたれることになるのです。
ということで、被相続人の所得が高い人はできるだけ相続専門の税理士に依頼することをおすすめします。
6つ目の見られるポイントは・・・
海外送金をしているのに海外財産の申告をしていない場合です。この場合も税務調査の対象になりやすいです。
一般的に海外送金をすると、送金目的を記載することが必須になります。それ以外にも必要書類をたくさん提出する必要があります。なので、送金目的をごまかすことは絶対にできません。要するに、送金目的はしっかり把握されるということですね。
また、送金金額が100万円を超えると税務署へ報告書が提出されます。ですから、これだけ海外送金をしているのに海外財産の申告がない場合には、当然税務署に疑われることになります。
それ以外にも、資産の購入が目的ではなく、留学費用や生活費を海外送金する場合もあるかもしれません。そういった場合でも、相続時に残金があればその金額は相続財産になりますので注意してください。
海外財産だからわからないと思ったら大間違いです。税務署はしっかり把握していますので、これを回避することは非常に難しいと考えておいたほうが無難です。
7つ目の見られるポイントは・・・
広大地評価を適用しているケースです。
広大地評価というのは、文字通り、広い土地を相続する人向けの相続税の負担軽減を目的とした制度です。この広大地評価制度を利用すると、土地の評価を大幅に下げることが可能になります。
ただし、広大地評価には注意点もあります。それは、「これだけの土地の広さがあれば広大地評価の適用が可能」というはっきりとした線引きがないということです。
一応基準は設けられています。ですが、単に面積が広ければ適用可能というわけでもないのです。なので、適用可能な土地でない、つまり「広大地として認められない」と税務署から言われてしまう可能性もあるのです。
その場合には、再び広大地評価を適用せずに土地評価を一からやり直さなければなりません。
結果として相続財産の評価計算ミスによる申告漏れとして、追加で相続税を納めなければなりません。つまり、相続税の追加納税+罰金ということですね。このようなことにならないためにも、やはり相続・土地評価に精通した専門家に依頼することをおすすめします。
8つ目の見られるポイントは・・・
自分自身で相続税の申告をしたケースです。
税務署は申告書を見れば、自身で相続手続きを終えたということが簡単にわかってしまいます。税理士などの専門家に依頼しないで相続税の申告を行うと、「おそらく何らかのミスがあるはずだ」と税務署から目をつけられてしまいます。
仮にそこそこの知識がある人であったとしても、相続税の申告は想像以上に複雑な作業になります。相続財産の評価額の計算ミスや相続税法の解釈ミスなど、いろいろなミスによるリスクが起こり得ます。
とはいえ、税理士に依頼すれば安心かといえばそうとも言えません。相続にあまり詳しくない税理士も存在しますので、そのような税理士に依頼してしまうとミスが発生する可能性は高くなります。
相続税の申告書自体にミスが見つかると、早い段階で税務調査が行われる可能性が高いですから注意してください。
なお、これまで解説してきた8つのポイントに、ひとつでも該当することがあったからといって必ず税務調査がくるというわけではありません。あくまでも1つの目安として参考にしてください。
ということで、相続税の申告を専門家に依頼する場合には、必ず相続に強い税理士を探すことをおすすめします。
また、相続財産のほとんどは不動産ですから、土地評価にも強い税理士に依頼することも相続税対策の1つになります。税理士事務所の中には、税務調査に入られにくい相続税申告を強みとして掲げているところもあります。
もちろん、その分費用は高くなりますが、後々相続税を追加徴収されたり罰金を支払うことを考えたら、初めから相続問題に強い専門家に依頼したほうがよいと思います。