遺言書の優先順位と強制力は○○!
遺贈契約はどうなる?
今回は、もし遺言書が何通も発見されたら、どれが優先されるのかというお話です。
通常は、遺言書は日付の新しいものが優先されます。ただし、日付以外にも押さえておきたいポイントがあります。
遺言書を発見した際には、まずその遺言書が、“自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言”のうちのどの遺言書であるのかを確認する必要があります。
公正証書遺言でしたら、公証人役場に行って公証人に作成してもらうものですから不備が見つかる可能性は低いです。ですから、もし公正証書遺言が何通も発見された場合には、例外なく日付の新しいものが優先されます。
一方、自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合には問題があります。
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、公証役場で公証人に遺言書を書いてもらうのではなく、遺言者自身が自由に書く遺言書です。ということは、法律で決められた形式で作成されていない可能性があるのです。
なので、家庭裁判所での検認手続きによってその遺言書が有効であるか否かを調べてもらう必要があります。
例えば遺言書が2通あって、検認手続きの結果、日付の新しい遺言書が無効で日付の古い遺言書が有効と判断された場合には、後者の遺言書に従って遺産分割協議を進めていく必要があります。
無効になる遺言書とは?
実際、どんな遺言書が無効になるのかというと、まず日付の明記方法があります。遺言書を書くときには、日付を正確に特定させる必要があります。
例えば、平成30年1月15日と記載された遺言書と平成30年3月吉日と記載された遺言書があったとします。
この場合は、日付がきちんと明記された平成30年1月15日の遺言書が有効、平成30年3月吉日の遺言書は無効とされます。それから、混同しそうなケースとして、公正証書遺言と自筆証書遺言の両方が発見された場合があります。
この場合、公正証書遺言の方が有効で自筆証書遺言は無効と思いがちですが、そうではありません。というのは、どのような種類の遺言書であれ、優先されるのはあくまでも“日付の新しいもの”だからです。
ですが、前述の事例ように自筆証書遺言の検認手続きによって無効と判断された場合には、仮に自筆証書遺言の日付が新しいものであったとしても、公正証書遺言で遺産分割協議を進めていくことになりますので注意してください。
自筆証書遺言の場合、法律に規定されている形式で書けば有効な遺言書を作成することも可能ですが、家庭裁判所での検認手続きに数ヶ月の時間を要することや、どんなに注意していてもミスが発生しないとは言い切れないことがあります。
なので、費用がかかるという欠点はありますが、公正証書遺言の方が安心・安全なのでおすすめします。
ということで、遺言書を発見したら、まずは検認手続きが必要かどうかを確認の上、有効な遺言書の中から最も日付の新しい遺言書に従って遺産分割協議を進めていきましょう。
すでに受遺者が亡くなっていたら贈与契約はどうなるの?
一般的に相続が起きると、亡くなった人の相続人に相続権が発生します。ただし、亡くなる前に相続人以外に財産を渡したいという人も少なくありません。
相続人以外に対し自分の財産を渡すことを“遺贈”といいます。一方、遺贈を受ける人のことを“受遺者”といいます。
自分の財産を第三者に遺贈するには、遺言書を残すしか他に方法はありません。なので、もしあなたが遺贈を考えているのであれば遺言書の準備は必須と言えます。
遺贈の種類は?
遺贈は“包括遺贈”と“特定遺贈”に分類されます。
包括遺贈というのは、相続財産の全部または一定の割合を指定して遺贈する方法になります。例えば、財産の1/2を遺贈するというようなケースです。
一方、特定遺贈というのは、遺贈財産を特定して遺贈する方法になります。例えば、不動産Aを遺贈するというようなケースです。
また、包括遺贈に関しては相続人と同一の権利が発生します。なので、もし借金などがあると、遺贈割合に応じて債務を返済する義務が発生します。
ちなみに、包括遺贈ですと遺産分割協議への参加も義務付けられていますが、特定遺贈ならそうした義務は一切ありません。
遺贈の放棄はどうなるの?
包括遺贈の場合は、相続発生を知った翌日から3ヶ月以内に、家庭裁判所において一定の手続きをしなければなりません。
一方、特定遺贈の場合は、そういった決まりはありません。なので、遺贈を放棄したい場合は、その意思表示を相続人に対していつでもすることが可能です。
そういうわけで、相続遺贈の方が何かと手続きがありますから、受遺者には喜ばれないケースも多々あるようです。
遺贈者の死亡時に受遺者がすでに亡くなっていたら遺贈契約はどうなるの?
結論から申し上げますと、その遺贈契約は無効となります。
通常、亡くなった人の相続人がすでに亡くなっていた場合は、代襲相続が発生します。ちなみに、代襲相続とは、その相続人の子や孫が相続権を引き継ぐことをいいます。
ただし、遺贈に関してはそのような決まりはありません。つまり、受遺者の子や孫が財産をもらうことはできないということです。
ですが、“受遺者が死亡していた場合には、受遺者の子供へ財産を遺贈する”と遺言書に書かれていた場合には、受遺者の子への遺贈が可能となります。
遺言書に受遺者が死亡していたときの取り決めがない場合には、遺贈財産は相続人へ帰属します。つまり、相続人はその財産についての遺産分割協議をすることになります。
被相続人(亡くなった人)の死亡前に受遺者が亡くなっていたとなると、相続と同様、遺贈に関しても代襲が発生しそうな気もしますが、そういう措置は設けられていません。
“特段の意思表示がなされていなければその遺贈契約は無効となる”ということはぜひ押さえておいてください。
遺言書にはどれくらいの強制力があるの?
さて、遺言書に書かれている遺産分割方法の強制力はどれほどのものなのでしょうか?
まず遺言書に書かれている遺産分割方法と、民法で規定されている遺産の分け方(法定相続分)とでは、どちらが優先されるのでしょうか?
これについては、遺言書に書かれている遺産分割方法の方が優先されます。つまり、遺言書に法定相続分以外の割合で財産の分け方が提示されていたとしても、その遺言書が無効になることはないのです。
ですから、相続人は遺言書に従って遺産分割協議を進めていくことになります。
なぜ遺言書が優先されるのに法定相続分が民法に規定されているの?
民法に規定されている法定相続分というのは、亡くなった人(被相続人)が遺言書を残さなかったケースにのみ適用されるものです。
これは、遺言書がないケースにおいても相続人が困ることがないよう、遺産分割の目安を示す必要があったからなのです。つまり、民法の法定相続分はあくまでも“遺産分割の目安”ということなのです。
遺言書がなかった場合には、民法で規定している法定相続分を目安にして遺産分割協議を進めてくださいね、という程度のものなのです。
理不尽な遺言書でも従わなければいけないの?
例えば、相続人がA、B、Cと3人いるにもかかわらず、“Aに全財産を相続させる”といった油井御所でもそれに従わなくてはいけないのでしょうか?
もちろんそんなことはありません。これは、BとCの遺留分を侵害しているからです。
遺留分というのは、民法で規定されているどのようなことがあっても相続できる“最低限度の相続割合”のことです。ですから、この遺留分が侵害されている場合には、遺留分相当額を取り戻すことができるのです。
とはいえ、“Aに全財産を相続させる”という遺言書が無効になるわけではありません。つまり、その遺言書自体が無効になるのでなく、遺留分相当額をBとCに渡せばそれで解決してしまいます。
BとCがそれで納得してくれる可能性は低いですが、これが現実なので仕方ありません。
遺留分を侵害していなければいいの?
以上の内容から、遺留分を侵害していない限り、どのような遺言書であっても絶対的な強制力があると思われるかもしれませんが、そうではありません。
というのは、遺言書に提示されている遺産分割方法を相続人全員がその内容に納得せず、自分たちで話し合って決めようということになった場合には、わざわざ遺言書に従う必要はないからです。
実際、仮に遺言書があったとしてもそれには従わず、自分たちでうまく話し合って遺産分割協議を完了させるケースも多々あります。
そうはいっても、遺言者は時間をかけて相続人のことを思い浮かべながら遺言書を書いているわけです。そういった労力が無駄になり、遺言者の希望通りにならなかったというのもなんだか気の毒ですよね。
そうならないためにも、被相続人の生前にご家族で話し合って遺産分割方法を決めておくのが理想的です。
そして、その話し合いの結果を遺言書にまとめておけば、家族全員が合意した内容ですから、きっとスムーズに遺産分割協議を終えることができるはずです。
ケースにもよりますが、専門家に依頼して調整してもらうのもよいと思います。遺言書を書くことで残された家族が困らないようにとの思いが裏目に出てしまっては意味がありません。
ということで、遺言書だけでなく相続対策をする際には、事前準備をきちんとしたうえで行うようにしましょう。
遺言書に未記載の財産を発見!無効?有効?
さて、遺言書に書かれていない財産が発見された場合、その遺言書は無効になってしまうのでしょうか?
相続が起きて亡くなった人(被相続人)が残した遺言書に、そこには書かれていない財産が後から発見されるということはよくあります。
このような場合、その遺言書は相続財産の記載漏れということで無効になってしまうのか、あるいはその遺言書のほかに相続財産の記載漏れがない日付の古い遺言書があれば、そちらが優先されて遺産分割協議が進められていくのか、こうした問題が起きることになります。
実際に遺言書に未記載の財産を発見した場合には、その未記載の財産以外の財産は遺言書どおりに、未記載の財産は相続人間で遺産分割協議をすることになります。
つまり、もし遺言書に未記載の財産があったとしても、その遺言書は無効にはなりません。そして、その遺言書に不備がなければそのとおりに遺産分割協議を進めていくことになるということです。
ちなみに、遺言書においてはすべての財産を正確に特定させなければなりません。ですが、「いくつかの財産については、相続人間で話し合って決めること」というようなメッセージを残すケースもあります。
こうした記載があればまだいいのですが、こうした記載がないうえに未記載の財産を発見することになると、相続人を混乱させてしまいます。
ですから、財産目録を作成してご自身の財産がどれだけあるか明記したうえで、“遺言者が分割方法を決める財産”と“相続人で分割方法を決める財産”とを分けて書くことをおすすめします。
遺言書の記載財産が処分されていたら?
それ以外にも、遺言書の記載財産がすでに処分されていたというケースもあるかもしれません。
このようなケースにおいても、上記と同様、処分されていた財産以外については遺言書どおりに遺産分割協議を進めていきます。
なお、遺言者は遺言書を書いたからといって、その内容に拘束されることはありません。なので、記載財産を処分しても何も問題ありません。
遺言書が複数あって遺産分割方法が違う場合は?
この場合は当然、日付の新しい遺言書が優先されます。
ただ例えば、古い遺言書には財産Aに関する分割方法の記載があるのに、新しい遺言書にはそれがないというケースもあるわけです。このようなケースの場合には、財産Aの分割方法については、古い遺言書に従い遺産分割協議を進めていくことになります。
一方、それ以外の財産については、新しい遺言書に従い遺産分割協議を行うことになります。
ちなみに、“遺言書を書き直す”ということは、その前の遺言書の内容を撤回するという解釈になりますので、原則として日付の新しい遺言書が優先されるのです。
ですが、このケースのように、新しい遺言書と古い遺言書の2つの遺言書によって遺産分割協議を進めていくこともありますので、その点は押さえておいてください。
遺言書の最大の目的は、相続人が困らないようにあらかじめ自分で決めた遺産分割方法を提示しておくことにあります。とはいえ、上記のケースのように、却って相続人を混乱させてしまう要因になってしまっては元も子もありません。
ということで、遺言書を残す際には、その性質をきちんと理解した上で家族に感謝されるようなものを作ることが大切です。