相続対策として
遺言書を準備しておいたほうがよい人とは?
今回は、遺言書を用意しておいたほうが良い理由についてのお話です。
最近は終活がブームになっていますよね。そうした流れもあり、遺言書を用意しておいたほうがよいと考えている人も少なくないようです。
ちなみに、近々“遺言控除”という制度が導入される予定になっていますので、より遺言書の必要性を感じるようになるかもしれません。
この遺言控除については、早くて平成29年度の税制改正に組み込まれるという話がありましたが、現時点においては導入されていません。ただ、いつ導入されてもおかしくない制度ではあります。
相続の遺言控除とは?
遺言控除というのは、相続に備えて遺言書を残しておけば、遺産総額に応じて一定額の控除を受けることができる制度です。
具体的には、数百万円単位での控除が可能になります。遺言書を書けば控除してくれる、というのは、すなわち相続税を安くしてくれるということです。
それでは、なぜ国は遺言書を書かせようとしているのでしょうか?
国が遺言控除を作る一番大きな理由は、相続トラブルを減らしたいからです。仮に相続トラブルが発生したとしても、それはあくまでも家庭内の問題です。
それなのになぜ国は新たな制度を作ってまで相続トラブルを減らそうとしているのでしょうか?
これについては、単に相続トラブルが増えるだけでは国が動き出す理由にはなり得ません。ですが、相続トラブルが裁判にまで発展してしまい、その件数が年々増加する傾向となれば、国も動き出さずにはいられません。
実際に家庭裁判所における相続関係相談件数を見てみますと、平成24年に寄せられた相続件数は訳175,000件でした。この数字は10年前の約2倍です。
遺言書を作成しておけば安心なの?
前述の終活ブームによって遺言書を書く人も増えましたが、それでも実際に遺言書を書く人、作成率は10%にも満たないのです。
もちろん、遺言書させ書いておけば絶対に相続トラブルが発生しないとはいえません。むしろ遺言書を作成する際に相続人のことをしっかり考えて作成しないと、かえって相続トラブルの引き金にすらなりかねません。
ですから、「とりあえずどんなものでもいいので遺言書を残しておけば大丈夫だ」と安易に考えることだけはやめておくことをおすすめします。
どんな場合に遺言書を準備しておいたほうがいいの?
まずこれからいくつかの遺言書を準備しておいたケースを紹介しますが、これらに該当しないからと言って遺言書は必要ないとは思わないでください。
色々な注意事項を考慮しながら遺言書を書いておいたおかげで、相続トラブルを避けることができたというケースも多くありますからね。
相続対策において、まず一番最初に取り掛かっていただきたいことは、あなた自身の財産状況を隅から隅まで把握することです。
そしてその次にやるべきことは、遺産分割対策です。相続人に対してあなたが考えた遺産分割方法を提示するためには、遺言書の作成しか方法ありません。
ここでは色々な家庭環境がある中でも、特に遺言書をきちんと残しておいたほうが良いケースについて説明していきます。
1つ目は・・・
まず遺言書があったほうが良いケースの1つ目は、相続財産の半数以上が自宅不動産で、かつ、相続発生後も相続人の誰かがその自宅に住み続ける可能性があるケースです。
日本人の相続財産の約半数は不動産です。不動産の中でも特に自宅不動産の占める割合が多いと、なかなか遺産分割協議がまとまらず、最終的には裁判にまで発展するケースも少なくありません。
なぜ自宅不動産の割合が多いとトラブルに発展しやすいの?
相続財産の中で自宅不動産の占める割合が多いケースでは、遺言書を作成しておいたほうが良いです。これは、不動産を分割することが難しいからです。
つまり、不動産は分割しにくため全相続人に均等に相続できないのです。そうすると、それが原因で相続トラブルに発展してしまうのです。
事例で検討
日本人の遺産総額の平均は約5,000万円ですから、この金額をベースに解説していきます。
例えば、遺産総額が5,000万円で相続人が子供4人(Aさん、Bさん、Cさん、Dさん)の場合だったとします。自宅の評価額は2,000万円と仮定します。
すると、一人当たりの法定相続分は1,250万円です。
4人の子供のうちAさんが親と同居していて、このままこの家に住み続けたいという意思があれば、遺産総額5,000万円から自宅不動産の評価額2,000万円を差し引いた3,000万円(5,000万円−2,000万円)を、Bさん、Cさん、Dさんに分割し、そして、一人1,000万円を相続するという案が浮上すると思います。
ところが、その分割案ですと、Aさんと、Bさん、Cさん、Dさんとの相続分に1,000万円の開きが出てしまいます。そうすると、この案をBさん、Cさん、Dさんがすんなり納得するとは思えません。
相続財産の中の自宅不動産の占める割合が多いと、こうした傾向になりやすいです。しかも相続人が子供たちのみの相続の場合には、親の意見がないことからお互いに感情的になってしまい、話がなかなかまとまらず、トラブルに発展する可能性が高いです。
このようなケースにおいて事前にできる対策としては、親と同居していないBさん、Cさん、Dさんに、生命保険金を多めにかけておくことがあります。つまり、保険を使って子供たち4人の相続分に大きな開きがでないようにするのです。
一方、本家筋の家庭では、家を守っていくという苦労を考慮して、後継ぎには多めに残したいという気持ちが生まれるのも当然です。
ですが、遺言書に後継ぎのAさんに多めに相続させると書いてしまうと、「不公平だ」とか「ひいきしている」といった理由によって、かえってトラブルの元になってしまう可能性もあります。
このようなケースでは、「家を守っていくことは並大抵のことではなく、自分自身も苦労した」ということ、「Aをひいきしているわけではない」ということ、「Aには多めに相続させた分、他の兄弟が困っていたら助けてあげる」ということ、「自分の死をきっかけに、より一層兄弟仲良く過ごしてください」ということ、などこのような一言を必ず残すことです。
こうしたメッセージのことを“付言”といいます。実は、遺言書の内容を完璧に書くことよりも、この付言をしっかり書くことのほうが重要です。付言があったために、トラブルを避けられたというケースが多いのも現実ですからね。
2つ目は・・・
遺言書があったほうが良いケースの2つ目は、あなたが個人事業主の場合です。
個人事業主が亡くなり相続が発生すると、事業で使用しているすべての事業用財産は被相続人個人の相続財産とみなされます。つまり、その分だけ相続税の課税対象となる財産が増加するということです。
当然、個人事業は会社ではありませんから会社の財産とはなりません。
ちなみに、個人事業を法人化すれば、事業用の財産は個人の財産ではなく会社の財産とみなされますので、節税に効果的と言われています。
ということで、個人事業主が亡くなって相続が発生すると、個人の財産のみでなく、事業用の財産も相続財産に含まれます。つまり、個人・事業双方の財産が遺産分割対象になるということです。
事例で検討
被相続人が個人事業主で、相続人はその子供3人、子供のうち1人は後継者として事業を引き継ぐといったケースの場合です。
事業用財産を相続人で分割してしまうと事業の存続が危ぶまれてしまいます。だからといって、事業を引き継ぐ子供に“全事業用財産は後継者に相続させる”と遺言書に書いておけばいいだろうと思うのは間違いです。
被相続人の兄弟姉妹以外が相続人となるケースでは、“遺留分”が認められています。
この遺留分というのは、被相続人の兄弟姉妹以外の人に対して、民法で最低限の相続分を保証している権利、つまり相続割合のことを言います。
具体的には法定相続分の1/2、あるいは1/3以上の財産については、どのようなことがあっても相続する権利が認められています。
ですから、例えば、遺言書に“後継者に全事業用財産を相続させる”と書いたとしても、他の相続人に相続させる財産が遺留分以下になってしまうと、それが原因でトラブルに発展する可能性があるのです。
そうならないためにも、後継者以外の相続人に対して“生命保険”などを活用して生命保険金の受取額を多めに設定しておくなど、相続財産を均等に相続できるようにしておくことが大切です。
従業員が事業を引き継ぐケースは?
一方、事業を引き継ぐ後継者が相続人の中におらず、従業員に事業を引き継いでもらうケースについては注意が必要です。
相続人以外に自分の財産を渡すことを“遺贈”と言います。この遺贈は遺言書がないとできないことになっています。つまり、遺言書がなければ従業員に財産を渡すことはできません。
この場合、遺産分割協議に第三者が入るわけで、それはそれでトラブルに発展する可能性が高まります。
ここでも、事業用財産を従業員に遺贈する分、相続人に対してもそれに見合った財産を相続させることが重要になります。具体的には、前述のとおり生命保険の活用するなどして、円満に相続を完了できるようにしたいところです。
3つ目は・・・
遺言書があったほうが良いケースの3つ目は、あなたが法人経営者の場合です。
個人事業主だけでなく、法人化している法人経営者であっても遺言書はあったほうがよいです。それはやはりそうしておかないと相続トラブルに発展しやすいからです。
よく「法人企業の財産は個人の財産とは切り離されているので、特に何の問題もなく相続を終えることができる」と考えがちです。
ですが、そうとも言い切れないのです。というのは、経営者が自社株を保有している可能性が高いからです。会社の財産は個人の財産とはみなされませんから、遺産分割の対象とはなりません。
一方、経営者個人が保有している自社株は相続財産に含まれますので、遺産分割対象になります。
相続人全員が会社の経営に携わっていないのに、自社株を法定相続分に従って相続するとなると、その後の会社の存続が危ぶまれる可能性が高くなります。
ですから、そのようなことにならないためにも、後継者が確定しているのであれば、「株式は○○にどれだけ相続させる」など、自社株式の相続・遺贈方法を決めて遺言書に書き記しておくことをおすすめします。
前述のように、後継者が相続人以外の人で、ご自分が亡くなった後はその人に自社株式を渡したいという場合には、相続ではなく“遺贈”ということになります。
遺贈の場合は遺言書を準備しておかないと自社株式を渡すことはできませんので注意してください。個人事業主であっても法人企業の経営者であっても、事業規模の大小にかかわらず、遺言書を残しておかないとトラブルの元になりかねません。
ということで、上記いずれかのケースに該当する場合には、ぜひ遺言書を準備するようにしてください。
4つ目は・・・
遺言書があったほうが良いケースの4つ目は、兄弟姉妹が相続人となる場合です。あなた自身の相続が発生し、あなた自身の兄弟姉妹が相続人となるケースは2つあります。
1つ目は、独身で親(直系尊属)がすでに他界している場合です。こちらは、あなた自身の相続が発生すると全財産が兄弟姉妹へと相続されることになります。
2つ目は、結婚しているけれど子供がおらず、親がすでに他界している場合です。こちらは、被相続人の配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。法定相続分は、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4です。
なお、兄弟姉妹がすでに他界している場合はその子供、つまり、あなた自身から見たら甥や姪に代襲相続が発生することになります。
このうちトラブルになりやすいのは、2つ目の被相続人の配偶者と兄弟姉妹が相続人となるケースです。
配偶者からすると、長い結婚生活の中で協力して、共に財産を築き上げてきたという認識があります。一方、兄弟姉妹からすると、血縁関係があるのだから相続権が発生して当然という認識があります。
この認識の違いからトラブルに発展する可能性が高くなるのです。
兄弟姉妹が相続人になる場合の注意点は?
兄弟姉妹が相続人になるケースでは、配偶者や子供が相続人となるケースと大きく違う点があります。それは2割加算の対象になる点です。また、遺留分がないという点も大きく違います。
ちなみに、2割加算というのは、相続税の納税義務が発生する際に、本来納めるべき相続税に2割加算した相続税を納めなければならないというものです。
一方、遺留分というのは、法定相続分の1/2あるいは1/3の割合は、どのようなことがあっても相続できる権利のことです。
兄弟姉妹が相続人となるケースでは、この権利は認められていません。つまり、遺言書に「兄弟姉妹には相続させず配偶者に全財産を相続させる」と書けば、兄弟姉妹には相続させずに配偶者にだけ相続させることが可能になるのです。
もし兄弟姉妹の相続人が「遺留分があるからこの遺言書は無効だ!」と主張してきたとしても、それは単に勘違いしているだけですから無視してOKです。
逆に言うと、遺言書を残さずに相続が発生してしまうと、兄弟姉妹への相続権が当然に発生してしまうということです。
相続財産の中で現金の占める割合が多く、兄弟姉妹への1/4の相続分を準備できれば問題ありません。
ですが、自宅不動産の割合が多く兄弟姉妹に相続させるものがない場合には、“自宅を売ってお金を準備しなければならない”といったケースに発展する可能性も高いですから注意が必要です。
また、兄弟姉妹に相続させたくないといった気持ちはないけれど、相続財産のうち自宅の占める割合が大きいという場合も、やはり兄弟姉妹に相続させるとなったら自宅を売却するしかなくなります。
このようなケースも、生命保険の活用などで対策しておくことをおすすめします。兄弟姉妹が相続人になる可能性が少しでもあるのなら、ぜひ遺言書を残しておきましょう。
5つ目は・・・
遺言書があったほうが良いケースの5つ目は、特定の相続人に相続させたくない、あるいは特定の相続人に多めに相続させたいという場合です。
まずは特定の相続人に相続させたくない人がいる場合から。
色々な家庭環境があるうち、家族と縁を切り何十年も顔を合わせていないという人が家族の中にいる、あるいは家族に向けた虐待や侮辱を受けていたなど、色々な理由により“相続させたくない相続人がいる”ということはよくあることです。
とはいえ、縁を切っているから、戸籍を抜いているから、虐待されていたから、侮辱されたから、など常識的には考えられない言動をしているといった理由があっても、相続権は発生してしまいます。
「それなら黙って相続を進めてしまえばいいじゃないか」と考えがちですが、遺産分割協議は相続人全員で行わなければなりません。つまり、誰か一人でも欠けた遺産分割協議は無効となりますので、一からやり直しとなってしまうのです。
ということで、このようなケースに該当する場合には、なんらかの対策が必用になってきます。
そこで、まず1つ目の対策として“遺言書を準備する”ということがあります。2つ目の対策としては“相続排除”を行うことがあります。3つ目の対策としては“遺留分を放棄してもらう”ということがあります。4つ目の対策としては“相続放棄をしてもらう”ということがあります。
なお、これら4つのポイントについては次回より詳しく解説していきます。