遺言の種類
メリットと特徴、無効と効力
今回は、遺言の種類についてのお話です。まず民法では、次の2つのパターン、計7種類の遺言を規定しています。
■普通方式:自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言
■特別方式:一般臨終遺言、難船臨終遺言、伝染病隔離者遺言、在船臨終遺言
このうち特別方式は一般的ではありませんので、今回は普通方式に絞って説明していきます。普通方式の中には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
そして、15歳以上であれば親の承諾なしに一人で遺言を書くことができます。15歳以上とは15歳も入ります。ちなみに、15歳を超えるといった場合は16歳からになります。
1つ目の自筆証書遺言ですが、遺言書のすべてを自書、つまり自分の手書きで書き、日付を書いて名前を書いて、それにハンコを押さなければいけません。これは民法で決められています。もちろん、日付も名前も自分で書きます。
遺言書が無効になるケースとは?
よく相談などで遺言書を見て欲しいと持参される方がいますが、たいていの方はワープロで打ったものに名前だけ自分で書いて来られます。ですが、これは民法の形式に違反していますので無効な遺言書となります。
それから録音してもダメです。遺言書というタイトルは、書いても書かなくても遺言の効力には関係ありませんが、書くのであれば自書、書いてあるものすべて直筆というのが要求されます。ハンコは実印でも認めでも構いません。ない場合は拇印でも構いません。
日付は書いた日が特定される必要がありますので「○年○月吉日」ではダメです。
なので、逆を言えば、特定できるものであれば、例えば「平成20年の誕生日」でも構いません。とはいえ、後でトラブルにならないように、「しっかり日付を書く」というようにアドバイスはしています。
遺言を書く際の注意点は?
遺言というのは、トラブルを防止するために書くものです。ですから、トラブルになりそうなことはやめた方がいいです。曖昧な表現というのはよくありません。
それから遺言は一人で書かなければいけません。隣に人がいてアドバイスを受けながらでも構いませんが、二人が同じ紙に遺言を書くこと、これは許されません。いくら仲の良い夫婦であっても、1枚の紙で共同して遺言を書いた場合には無効になります。
内容をお互いに知っていても構わないのですが、一緒に書いてはいけません。
自筆証書遺言のメリット・デメリットは?
この自筆証書遺言のメリットは、手軽にいつでも書けるということと、費用が安いということです。そして、原則としては自分一人で書きますから人に見せたりはしない、つまり内容を他人に知られることが少ないということもメリットです。
一方、自筆証書遺言のデメリットは、民法に決まっている形式どおりに書かなければ、つまり全文自分で書いていない、自書していないとか、日付を抜かしてしまっているとか、ハンコを押し忘れたりとか、そういった場合せっかく書いたのに無効になってしまう可能性が高いということです。
また、最初に見つけた人に、都合の悪いことが書かれている場合、偽造されたり改ざんされたり破棄されたりする危険性があるということです。ただ、だからといって貸金庫に預けると、今度は誰にも発見されなくなりますのでこれはやってはいけません。
実は、自筆証書遺言は法律に書いてある形式に従えばそれでいいかといえば、それだけでもありません。詳しくは後述しますが、書く内容、それから表現の方法についても、知らないで書くと逆にトラブルの元になってしまいます。
また、遺言執行者の指定がないと、せっかく書いた遺言書の内容どおりに分割されるかどうかも疑わしくなります。
それから、書き間違えてしまって訂正する場合です。普通の契約書のような訂正印を使って訂正をするだけではいけません。訂正の方法も決まっています。
さらに、裁判所による検認というものが必要になります。この検認のための書類というのは、基本的に相続に必要な書類のすべてです。つまり、亡くなった人の戸籍や相続人の戸籍が必要になります。なので、残された人にはかなりの手間がかかることになると思います。
この検認というのは、遺言書が見つかった場合、家庭裁判所に持っていって、民法どおりに書かれているかどうかを形式を調査確認します。
つまり、形式的に有効か無効かを判断して、後で争いが起きて裁判になった場合に、証拠として保全してもらうという制度です。
ですから、この検認では遺言の内容が有効なのか無効なのかまでは判断しません。遺言の内容が有効か無効かというのは、別に裁判を起こす必要があります。
公正証書遺言のメリット・デメリットは?
公正証書遺言というのは、2人以上の証人の前で遺言の内容をお話して、それを公証人が書き取るという方法で作成されるものです。公正証書遺言は公証人という専門家が作成しますので、民法に書かれている形式不備で無効になるということはありません。
また、原本が公証人のところに保管されますので、偽造や変造、破棄されるといった心配がありません。さらに、家庭裁判所の検認も必要ありません。こうしたことがメリットといえます。
一方、デメリットはというと、事前に打ち合わせをする必要がありますので時間がかかります。
つまり、今から行ってすぐに作成するということはできません。また、事前に検認と同じようなことをすることになりますので、被相続人の戸籍、相続人の戸籍などを事前に取り寄せておく必要があります。
ちなみに、こうした書類集めは、公証人はしてくれません。なので、自分たちでやるか、あるいは行政書士などに依頼するか、いずれにしてもかなりの時間を要します。相続人の人数が多い場合には、2ヵ月以上かかるケースもあります。
とはいえ、この書類は、結局相続手続きのときにも使うことができるものもありますので、すべてが無駄になるわけではありません。
ですので、これのみを行政書士に依頼するというケースも多いようです。それから、費用が高いというのもデメリットです。相続人の数にもよりますが、10〜20万円くらいかかることもあります。
さらに、遺言の内容が公証人と証人に知られてしまいます。しかしながら、公証人には守秘義務がありますので、公証人から外部に漏れることはありません。ただし、証人を自分の知り合いにしてしまうとそこから漏れてしまう可能性はあります。
秘密証書遺言のメリット・デメリットは?
秘密証書遺言というのは、自分で書くか、あるいは弁護士や行政書士などの専門家が書いた遺言を封筒に入れて密封して、そして公証人と証人2人の前で自分の遺言であるということを告げて封印するものです。
秘密証書遺言のメリットは、ワープロで書いても構わないことです。
また、封印するため改ざんの恐れがほとんどありません。仮に弁護士や行政書士に書いてもらったとしても、守秘義務で守られていますので秘匿性は高いです。しかしながら、自分で書いた場合には形式不備で無効になることもあります。
それから、公証人は保管してくれませんので、見つけた人に破棄されてしまうこともあります。なお、秘密証書遺言は、金額が高い割に裁判所の検認が必要になるので、現在ではほとんど利用されていません。
余談ですが、ドラマや映画で封印してある遺言書を見つけたときに、勢い余って慌ててすぐに開けてしまうシーンがありますが、あれはダメです。
封印してある遺言書は、そのまま開封しないで家庭裁判所に持って行かなければならないとされています。
なので、これを破ってしまうと5万円以下の過料になってしまいますから注意が必要です。ちなみに、開けてしまって中を見てしまったとしても、それだけで遺言書が無効になったりはしません。